収益認識基準導入による有償支給取引への会計上の影響①

Ⅰ はじめに

企業(以下、「支給元」という。)が、対価と交換に原材料等(以下、「支給品」という。)を外部(以下、「支給先」という。)に譲渡し、支給先における加工後、当該支給先から当該支給品(加工された製品に組み込まれている場合を含む。以下、同じ。)を購入する場合があります。これら一連の取引は、一般的に有償支給取引と呼ばれています。

 

平成30年3月30日に公表された、「収益認識に関する会計基準」および「収益認識に関する会計基準の適用指針」(以下、「新収益認識基準」という。)の適用により、有償支給取引に関する会計処理にどのような影響があるのか、本記事を含め全3回にわたって解説していきます。

 

なお、本文中のうち意見に関する部分については、筆者の私見であることをあらかじめお断りしておきます。


Ⅱ 新収益認識基準に基づく会計処理の概要

新収益認識基準を適用した場合、有償支給取引に関する会計処理は、企業が支給品を買い戻す義務を有しているか否かにより異なります(収益認識に関する会計基準の適用指針 104項)。

 

[買戻し義務がある場合]

⇒支給品の譲渡に係る収益を認識せず、当該支給品の消滅も認識しないこととなるが、個別財務諸表においては、支給品の譲渡時に当該支給品の消滅を認識することができる。なお、その場合であっても、当該支給品の譲渡に係る収益は認識しない。

 

[買戻し義務がない場合]

⇒支給品の消滅を認識することとなるが、当該支給品の譲渡に係る収益は認識しない。

 

いずれの場合においても、支給品の譲渡に係る収益を認識しないのは、支給品の譲渡に係る収益と最終製品の販売に係る収益が二重に計上されることを避けるためであることが適用指針に明記されています(同 179項、180項、181項)。

また、買戻し義務がある場合、支給品の消滅も認識しないのは、支給先が当該支給品を指図する能力や当該支給品からの残りの便益のほとんどすべてを享受する能力が制限されているため、支給先は当該支給品に対する支配を獲得していないことによるとされています(同 180項)。

 

このように新収益認識基準により、有償支給取引に関する会計処理及びその趣旨が明らかにされていますので、会計処理の適用に際しては趣旨に照らして実態に即した会計処理となるよう留意が必要です。

 

また、①自社が支給元であるのか、支給先であるのか、②支給品の買戻し義務があるのか、ないのか、といった点を明確にした上で会計処理の整理を行うとよいでしょう。

Ⅲ 設例(支給先)

以下、設例及び解説については、自動車部品メーカーを想定し、話を進めていきます。

(1)前提条件

 

自動車部品メーカーのA社は、自動車メーカーH社より、自動車部品Xの製造委託を受けている。

部品Xについては、H社がA社に支給単価@120円で材料Pを有償支給しており、A社にて自社手配した材料Q(購入単価:@20円)を組み付け、A社はH社に完成品を単価@250円で販売している。なお、H社より有償支給されている材料Pは必ず部品Xのために使用しなければならず、他に転用することは認められていない。

 

X1期の取引

 

材料P 20024,000@120H社より有償支給され、150個を使用し、50個が期末に材料在庫として残っている。

  1. 材料Q2505,000@20で外部より仕入れ、150個を使用し、100個が期末に材料在庫として残っている。
  2. 材料Pと材料Q150個ずつラインに投入し、部品X100個が完成し、50個(加工進捗度40%)が仕掛品在庫として残っている。部品Xのラインでは、労務費が4,500円、減価償却費が1,500円発生している。(材料費、労務費、減価償却費以外の製造原価は発生しないと仮定する。)
  3. 100個完成した部品X のうち8020,000円(@250円)がH社に売却され、20個が製品在庫として残っている。
  4. 期末在庫は以下の通りである。(期首在庫は存在しないと仮定する。)

 

 

在庫数

材料単価

加工単価

支給材

自社手配

材料P

50

120

-

-

材料Q

100

-

20

-

仕掛品X

50

120

20

20

製品X

20

120

20

50

 

以上を基にA社における仕訳、及び決算書を作成せよ。

(2)解説

まず、A社は支給品を受け取る側であるため(有償受給側)、支給先であるといえます。また、材料Pの転用は認められていないことから、買戻し義務がある取引といえます。この前提に基づくと、各取引に関する仕訳は次の通りです。

材料P仕入時の仕訳

 買戻しが前提の支給品は売上も原価も構成しないため、仮勘定(有償支給に係る資産)で受け入れます。

材料Q仕入時の仕訳

自社手配の材料仕入については、原価を構成するため、

現行の処理と変わらず材料費を認識します。(変更はありません。)

労務費及び減価償却費の計上の仕訳

材料以外の製造原価には何ら影響はないため、現行通りの処理を継続します。(変更はありません。)

製品Xの売上時の仕訳

新基準では、仮勘定(有償支給に係る資産)を売却分だけ減少させ、差額で売上を認識します。

在庫の計上仕訳

 

  

支給品は原価を構成しないため、期末残存分は棚卸資産にはなりません。

⑥決算書(製造原価報告書)

⑦損益計算書

 

 

 

 

売上が支給品分減少しますが、同額製造原価も減少するため、利益は変わりません。

⑧貸借対照表

 

 

 

現行の棚卸資産のうち支給品相当額が有償支給に係る資産としてB/Sに認識されるため資産合計へのインパクトはありません。

Ⅳ まとめ(支給先)

新収益認識基準の適用に当たり、会計処理上、仕訳への影響、関連するシステムへの影響を把握しておく必要があります。

【仕訳への影響】

仕訳については、①有償支給取引に関する仕訳を全面的に見直す方法、及び②現行の仕訳に加えて組替仕訳を計上する方法の2種類が考えられます。①については、設例をご参照ください。②については、設例の数値を基に考えられる組替仕訳を以下に示しておきます。

なお、いずれの方法を採用する場合でも、必要な情報を収集することが可能であるかという点について、早めに社内で検討しておく必要があります。

【システムへの影響】

棚卸資産の単価マスターを変更する必要があります。

ダウンロード
設例と同様の内容です。
設例(有償支給取引支給先).pdf
PDFファイル 489.1 KB

Ⅴ 終わりに

今回は新収益認識基準に基づいた有償支給取引に関する会計処理のうち、支給先の会計処理を中心にお伝えしました。続くでは支給元の会計処理について、③ではすでに導入済みの他社事例を紹介したいと思います。

Ⅵ 関連リンク