不動産特定共同事業法(以下「不特法」と表記)の許可取得のために、会計監査を受ける必要があると聞いたけれども、そもそも「会計監査」って何をするのか、誰に依頼すればいいのか分からない方も多いのではないでしょうか?
実は、経常的に「会計監査」を受ける必要があるのは、上場企業等の規模の大きな会社に限られ、不特法の許可申請を行う8割以上の会社が「会計監査」を初めて受けるといわれています。
私が公認会計士として不特法の許可取得のサポートを行う中で得た経験をもとに、会計監査を初めて受ける会社が「不特法で求められる会計監査」及び「適切な会計監査の依頼先」を理解できるように丁寧に解説します。
本記事の要点
- 会計監査の概要
-
帳簿と書類の照合やヒアリングを通して決算書が正しいことを公認会計士が検証し、監査報告書という書面を発行すること。
- 不特法の会計監査
-
許可取得時:直近3年分の決算書
許可取得後:事業報告書(必須)、財産管理報告書(任意)
- 適切な会計監査の委託先
-
不特法に精通している小規模な監査法人または個人の会計事務所
会計監査とは
会計監査という言葉は聞いたことがあるけれども、そもそも誰が何のために何をするのかイメージがつかない方が多いと思います。
実は、会計監査を受ける必要がある会社というのは、上場企業や規模の大きな会社(資本金5億円以上または負債200億円以上)に限定され、世の中に存在するほとんどの会社では会計監査を受ける必要がないため、多くの人に具体的なイメージがないのが現状です。
そこで、ここからは、そもそも「会計監査」のことを知らない方のために、会計監査の概要を説明します。
会計監査について具体的なイメージができている方は、読み飛ばして「不動産特定共同事業法の会計監査」に進んでいただければと思います。
会計監査の目的
会計監査には様々な目的がありますが、最も重要な目的は「利害関係者の保護」です。
「利害関係者」はステークホルダーともいわれますが、会社が事業活動をする上で関係する人や組織だと考えてもらえれば十分です。
具体的には、顧客、労働者、投資家、株主、専門家、債権者、得意先、地域社会、行政機関など、会社が事業活動をする上で接点を持つ全ての人や組織を指します。
この多岐に渡る「利害関係者」の中で、会計監査で保護する主な対象は、会社との間で金銭的な利害関係を有する「株主(投資家も含む)」と「債権者」となります。
では、なぜ「株主」と「債権者」の保護のために、会計監査が必要なのでしょうか?
会社が事業活動をするためには、資金を調達する必要があります。
資金調達は
「出資を受ける方法」と「借り入れる方法」に大きく分かれます。
そして、会社に出資する者を「株主」、会社にお金を貸す者を「債権者」といいます。
「株主」については、既に出資している株主のみだけでなく、出資(株を購入)しようか検討している投資家も含んでいると考えてください。
「債権者」については会社へ融資する銀行をイメージするとわかりやすいと思います。
では、「株主」「債権者」には、それぞれどのような考えがあって、会社に出資したり融資したりするのでしょうか?
この会社は成長性があり将来的に利益が出せそうだから、配当がもらえたり、株式の価値(≒株価)が上がって株式を売却した時に利益が見込めそうだ。
この会社は財務的基盤があるし、利益をしっかり出しているから、利息の支払いと元本の返済には問題がなさそうだ。
裏を返せば、会社の成長性が見込めなかったり、会社の財産的基盤が乏しかったり、損失を継続して出している会社には、誰もお金を出資したり、融資してくれません。
そうなると会社は資金が足りずに事業を継続できなくなる可能性が生じます。
そのため、会社には、株主や債権者へ提出する経営成績表である「決算書」をよく見せようとする動機が働きます。
この動機は、経営成績の芳しくない会社ほど強くなる傾向にありますが、すべての会社に共通に存在するものであります。
そこで、会社とは利害関係の全くない公認会計士や監査法人が、中立的な立場から、決算書に誤りや不正がないかチェックをして、その結果を監査報告書という書面をもって報告します。
この結果、株主や債権者は、会社の経営成績を、監査報告書が添付された信頼性の高い決算書により確認することができ、投融資判断を適切に行うことができるのです。
会計監査制度の目的
会社には、決算書を対外的によく見せようとする動機が働くため、その抑止をするために、会計監査が行われる。
監査報告書が添付された決算書があることで、株主や債権者は安心して投融資の判断を適切に行うことができる。
会計監査は誰がやるのか?
会計監査には誰が実施するかによって「内部監査」と「外部監査」に分かれます。
「内部監査」とは、組織内の者によって行われる会計監査であり、例えば、社内の内部監査室が行う会計監査や、PTAの会計監査など、組織が独自に実施する会計監査です。
一方で、「外部監査」とは組織とは、会社とは利害関係のない中立的な第三者である公認会計士または監査法人によって実施される会計監査のことを指します。
法律等で要求されている会計監査は、基本的に「外部監査」を指しますので、「外部監査」を前提に、誰が会計監査を実施するのかを説明していきます。
例えば、会社法では一定規模以上の会社については、会計監査人により決算書の監査を受けなければならないとされていますが、「会計監査人は、公認会計士又は監査法人でなければならない。」と定められています。
不特法においても、決算書について公認会計士または監査法人の監査を受けなければならない。と規定されています。
それでは、「公認会計士又は監査法人」とは何なのでしょうか?
監査法人・・・公認会計士が5人以上集まって設立された法人(主要業務は会計監査)
公認会計士・・・〇〇会計事務所(主要業務は税務申告業務のことが多い)
一般的には、会計監査は監査法人に頼むという認識があるようですが、実は、会計事務所が会計監査を引き受けているケースもあります。
しかし、会計事務所というのは、税務申告業務が主要な業務としていることが多く、会計監査を引き受けない、または、小規模な案件だけを引き受けているケースが多くみられます。
また、会計事務所の中には、所長が税理士資格のみを保有し、公認会計士資格を保有していない場合もあり、その場合には、そもそも会計監査を引き受けることはできません。
一方で、監査法人は、公認会計士が5人以上集まり、会計監査を主な業務としている法人であります。
監査法人 | 会計人事務所 | |
---|---|---|
所属する公認会計士の数 | 5人以上 | 1人以上 (公認会計士が所属しない場合もあり) |
主要な業務 | 会計監査 | 税務申告 コンサルティング |
監査法人については、規模は大小様々あり、下記のような業界構造となっております。
大手監査法人に分類される4法人、新日本EY、あずさ、トーマツ、PwCあらた(BIG4と呼ばれる)については、聞いたことがある方も多いと思いますが、実は、全国で400法人超(うち半数程度が東京都に集中)の監査法人があります。
準大手監査法人は、仰星、三優、太陽、東陽及び PwC 京都の5法人とされていますので、その他の数百法人が、中小規模の監査法人に分類されています。
それぞれ特色がありますので、特色を理解した上で、会計監査の依頼先を考える必要があります。
この点、不特法に最適な委託先については、「不特法の会計監査はどこに頼む?」にて説明しています。
税務顧問の会計士に会計監査をお願いできないの?
会社の決算書の作成代行や税務申告を請け負っている税務顧問は会計監査を提供することはできません。
税務顧問は、会社の経理業務の一部を業務受託しているため、決算数値を作成する立場にあります。仮に、税務顧問が会計監査をしてしまうと、自分で作成した決算数値を自分で監査をすることとなり、自己監査となってしまいます。
それでは、中立的な判断ができませんので、税務顧問に会計監査を頼むことはできません。
会計監査はいつ何をやるの?
会計監査では、決算書が適正に作成されているかをチェックする訳ですが、決算書はすべての会社の取引を記録した集計結果に過ぎません。
そのため、すべての実在する取引が漏れなく、正確に記録されていれば、決算書が適正であると結論づけることができます。
では、すべての取引を請求書や入出金記録と照合するのでしょうか?
答えは「No」です。
会社は日々事業活動を実施しており、膨大な取引量があり、すべての取引について照合作業をしていたらいくらあっても時間が足りません。
そのため、会計監査では、項目に応じて2つのアプローチから決算書が適正であるかチェックを進めます。
①「ストック情報(結果)の検証」
②「フロー情報(過程)の検証」
例として、八百屋さんの決算書の会計監査をすると考えてみましょう。
この八百屋さんでは、様々な野菜を取り扱っており、販売単価は日々の仕入値に応じて変動させています。会計は現金のみで行っています。決算期は12月末です。
会計監査では、売上、仕入、給料、消耗品、現金など決算書の費目(勘定科目といいます。)ごとに12月末時点の金額の妥当性を検証していきます。
会計士は、勘定科目ごとに①「ストック情報(結果)の検証」、②「フロー情報(過程)の検証」
のどちらのアプローチを使用した方が効率的に検証できるか決定します。
ここで、現金の検証をするとしましょう。
現金の検証では、①「ストック情報(結果)の検証」のアプローチを採用します。
12月末時点の現金の残高は、日々の入出金の積み重ねですが、日々の入出金を領収書等と照合していくのは効率的ではありません。
一番簡単な方法は、決算日の営業時間終了時に実際に現金を数えることです。
そのため、会計士は12月末の営業終了後に実際に店舗へ行き、現金の残高を数えます。
このカウント結果と、決算書の現金の金額が一致していれば、決算数値は適正ということになります。
このように、決算日時点の決算数値を直接的に確認するアプローチが「ストック情報の検証」です。
他にも、預金や借入金残高を検証するために、金融機関から決算日時点の残高に関する証明書を取り寄せて、照合する作業も「ストック情報の検証」となります。
次に、売上の検証をするとしましょう。
売上の検証では、②「フロー情報(過程)の検証」のアプローチをとります。
12月末時点の売上は、日々の売上金額の積み重ねであり、また、日々の販売価格も変動するので、決算日時点の売上の金額を直接的に検証することは困難です。
そのため、日々の売上金額の妥当性を検証することになるのですが、1年間の全営業日の売上の集計表を1つずつ検証するのは時間がかかり現実的ではありません。
そこで、フロー情報の検証では、日々の売上を記録する際のルールが売上を適切に記録するために十分なものであるか確かめた上で、ルールがしっかりと守られているかを確認します。
例えば、この八百屋さんでは売上の集計に関して以下のルールがあったとしましょう、
①副店長が開店前に商品ごとに値札をつけると同時に売上集計表に販売単価を転記する。
②店長が売場を回り、値札と売上集計表の金額の一致を確かめ、問題なければ売上集計表に押印する。
③レジ係は客ごとに何を何個買ったか売上集計表に正の字で記録していく。
④閉店後、レジ係は商品ごとに販売数を集計し、販売単価を乗じて売上高を算出する。
⑤店長は売上集計表を確認し、在庫量と比較して販売数に異常がないことを確認し、再計算を行い問題なければ、売上集計表に押印する。
このようなルールがあれば、日々の売上の金額は適切に記録ができそうです。
そのため、全営業日の中から複数の日をサンプルとして抽出して、売上集計表にレジ係の人が正の字を記録しているか、店長の確認結果としての押印がされているか、集計された売上金額と帳簿の金額が一致しているかを確かめます。
このように、日々の取引記録をルールの運用状況とサンプルチェックをするアプローチが「フロー情報(過程)の検証」です。
なお、B/S科目については、「ストック情報の検証」をP/L科目については、「フロー情報の検証」のアプローチが採用されることが多いです。
会計監査手法まとめ
全ての取引を一つずつ検証することはせず、取引の中からサンプルを抽出してチェックする。
勘定科目の性質に応じて様々なアプローチから金額の妥当性を検証する。
会計監査対応は誰が何をやるの?
会計監査を受けることになったら、経理部が会計監査対応をすることになります。
会社の規模や経理体制にもよりますが、1~2名の窓口となる担当者を決めて、その担当者を中心に、会計士とコミュニケーションを取っていきます。
会計監査対応は主要業務は「質問対応」と「資料準備」となります。
会計士は、決算数値に対して様々な視点から検証を行いますが、検証の過程で不明点が生じます。
例えば、売上の月次推移分析をしていた際に、8月から売上高が急増していることに気が付いたとします。
会計士としては、なぜ8月から売上が増加したのか、増加理由に合理性があるのか確認したいので、経理の方に「なぜ8月から売上が急増しているんですか?」と質問します。
仮に、経理担当者から「実は8月にテレビCMを開始しましてそれから売上があがったんです。」と
回答があれば、会計士としては、8月からテレビCMを開始した事実を確認したいので、テレビCMを開始した際の稟議書や発注書を見せてくれませんか?と根拠資料の準備を依頼します。
このように会計士は、質問や資料の閲覧を行いながら、決算数値の分析結果に合理性があるかどうかを確かめていきます。
一見、会計監査対応は面倒くさいものに思えます(実際、面倒くさいのですが。。。)が、会計監査対応をしているうちに、会計士が、どのような視点で会計数値を分析しているのかを知ることにつながり、結果として経理スキルの向上につながります。
また、経理職であれば、会計監査対応をした経歴はプラス材料となり、転職の際に有利に働くこともありますので、経理スキルの向上という観点で言えば、会計監査対応をやることで得られるメリットは大きいものとなります。
会計監査の費用は?
会計監査を監査法人に委託する手数料のことを、監査報酬といいます。
監査報酬は、一般的に下記算式で算定されます。
監査報酬 = 監査時間数 × 請求単価
それぞれ分解して説明していきます。
監査時間数
監査時間数とは、「監査契約の開始から監査報告書を発行するまでに要すると見込まれる時間」のことです。
監査時間数は、監査契約をする前に、監査法人が予備調査(監査契約前に会社概要や財務内容を調査すること)を実施し、この会社の規模でこの取引量であれば、このくらいの監査時間数がかかりそうだという予測のもとに算出されますので、監査時間数はあくまでも見込みの数字です。
また、監査時間数というのは、各会社の個別の要因に大きく左右されますので、実際に予備調査をしないと提示することが難しいのが正直なところです。
例えば、業種、売上、総資産、従業員数がほとんど同じであるのA社とB社があったとしましょう。
予備調査の結果、A社は経理1名体制、B社は経理5名体制ということが分かったとします。
A社は1名のみで経理をやっており、複数名での相互牽制がきいていませんので、記帳ミスが起こりやすいでしょうし、不正が起こるリスクも高いので、B社よりもA社の方が会計監査に要する時間数は多くなります。
このように、企業規模が同じであっても、様々な要因によって監査時間数の見込みは企業ごとに異なるのです。
請求単価
次に、請求単価ですが、一般的に、下記のような構成で決定されております。
ここで着目いただきたいことは、請求単価のほとんどを人件費が占めているということです。
会計監査業務は、公認会計士の労働によってサービスが提供されますので、会計監査業務の原価の大半は公認会計士に対する給与になるわけです。(会計監査は、知識集約型産業に分類される。)
また、請求単価は役職ごとに提供できるサービス価値に差がありますので、異なる設定がなされていることが一般的です。
パートナー | 35,000円/時間 |
シニアマネージャー | 30,000円/時間 |
マネージャー | 25,000円/時間 |
シニアスタッフ | 20,000円/時間 |
スタッフ | 15,000円/時間 |
監査報酬まとめ
監査報酬 = 監査時間数 × 請求単価
監査時間数:会社ごとの個別要因を勘案して決定されるため、予備調査を受けてみないと見積もれない。
請求単価:監査法人ごとに異なり、役職別に単価が設定されていることが多い。
監査実績時間と見積時間の差はどうなる?
先述の通り、監査報酬は、予備調査時点の見込み時間数に基づき算出されます。
したがって、実際に監査に要した時間数と見込み時間数には当然ずれが生じますが、実績時間数と見込時間数の差分について、事後的に監査報酬の額を増額させたり、減額させることはまれです。
事後的に監査報酬の額が変動する場合は、監査報酬の合意後に、合併が決まり、その結果、監査に要する時間数が大幅に増加したなど、当初監査報酬を合意した時点から、明らかに企業環境が変化したと会社、監査法人、双方が納得できる状況でないと難しいのが現状です。
不動産特定共同事業法の会計監査
ここまでは、会計監査全般について概要を説明しました。
ここからは、不動産特定共同事業法(以下、「不特法」と表記)における会計監査制度を詳しく解説していきます。
不特法の会計監査
- 会計監査の目的
-
投資家の保護
- 不特法で求められる会計監査
-
許可取得時:直近3年分の決算書
許可取得後:事業報告書(必須)、財産管理報告書(任意)
- 適切な会計監査の委託先
-
不特法に精通している小規模な監査法人または個人の会計事務所
目的
まずは、不特法において、なぜ会計監査が求められているのかを説明します。
結論としては、「投資家の保護」となります。
ここで、下記例を考えてみましょう。
あるアパートを購入して賃貸するビジネスへ参入しようとしているA社という会社があるとします。しかし、A社はアパートを購入する十分な資金が自己資金や銀行借入では賄えそうにありません。
他方で、不動産投資を少額で初めたいという個人投資家Xさん、Yさん、Zさんがいるとします。
そこでA社は、Xさん、Yさん、Zさんの3名から出資を募り、その資金をもってアパートを購入し、賃貸経営によって生じる利益の一部を配当として3名に還元することを考えました。
しかし、Xさん、Yさん、Zさんとしては、A社が信用のおける会社なのか、出資した資金が本当にアパートの購入に使われるのか、また、アパートの賃貸経営の状況等を知ることができないのであれば、安心してA社に出資することができません。
そして、Xさん、Yさん、Zさんにとって最も困ることは、A社が倒産をして、出資したお金が一円を戻ってこないことです。
そこで、不特法では、不動産特定共同事業者(以下、「不特事業者」と表記)の許可要件として、十分な財産的基盤があることや直近期の業績が安定していることを求め、その根拠資料として直前3年分の決算書の提出を求めています。
しかし、不動産特定共同事業(以下、「不特事業」と表記)の許可を得たいが一心に、十分な財産的基盤や業績が安定しているように見せかけるために、決算書を操作(粉飾)しようとする不誠実な事業者が存在する可能性はゼロではありません。
そこで、不特法では、許可申請時に提出する直前3年分の決算書について、会社とは利害関係のない中立的な公認会計士または監査法人により会計監査を受けることを求めているのです。
また、行政機関としては、不特事業の許可を付与した後であっても、不特事業者が引き続き十分な財産的基盤や業績の安定を維持できているか、継続的にモニタリングし、事業存続に疑義がある不特事業者については許可を取り消す等の対応をする必要があります。
そこで、不特法では、毎事業年度ごとに「事業報告書」という書面をもって、不特事業者の一年間の事業の状況を報告することを求めています。
この「事業報告書」の中には、決算書も含まれていますので、決算情報に不正な操作(粉飾)がされないよう公認会計士または監査法人により会計監査を受けることが求められています。
このように、許可取得時と許可取得後のそれぞれの決算書に会計監査を要求することで、財務的に健全な事業者のみが、不特事業を営むことができるようになり、投資家としては、安心して不特事業に対して投資をすることができるのです。
不特法監査の目的
許可取得時と許可取得後の決算書について、公認会計士による会計監査がされていることで、財務的に健全な事業者のみが不特事業を営んでいる状態が保たれ、投資家が安心して不特事業に出資できるようになる。
許可取得時の会計監査
ここからは、不特法の許可取得時の会計監査について、詳しく解説します。
まず、監査対象となる決算書は、貸借対照表と損益計算書です。
これらの決算書は全ての会社で作成しているものになりますので、新たに作成する必要はありません。
なお、決算書の様式については、不特法では特に指定されておりませんので、会計システムから出力した決算書でも構いませんが、当監査法人では、許可取得後に作成する事業報告書の決算書の様式を利用して作成することを推奨しています。
事業報告書の様式を利用したほうが良い理由
・許可審査をする行政機関の担当者が見慣れている様式だから
・許可取得後の事業報告書を作成するときに効率化が図れるから
様式は下記からダウンロード可能です。
次に、直前3事業年度の考え方を説明します。
直前3事業年度は、許可の本申請時点を起点にカウントする必要があり、許可の事前相談開始時点ではないことに留意が必要です。
許可申請にあたっては長期間かかる場合もあり、その期間内に決算日を迎えると直前3事業年度の対象期間がずれてしまいますので、注意が必要です。
(例1)12月決算の会社がX4年6月から許可申請の事前相談を開始し、X4年11月に本申請をした場合
<直前3事業年度>
X1年1月~12月
X2年1月~12月
X3年1月~12月
(例2)12月決算の会社がX4年6月から許可申請の事前相談を開始し、X5年3月に本申請をした場合
<直前3事業年度>
X2年1月~12月
X3年1月~12月
X4年1月~12月
上記のように、許可の本申請のタイミングに応じて、どの事業年度を対象に会計監査を受けるのかが変わりますので、不特法の許可申請プロセスを十分に理解した監査法人等とスケジュール策定をする必要があります。
小規模不動産特定共同事業者の登録の場合は?
小規模不特事業の登録申請書には、直前2年の各事業年度の貸借対照表及び損益計算書を添付すると不特法施行規則61条2項2号で規定されています。
なお、2年分の決算書について会計監査を受けることは求められていません。
許可取得後の会計監査
次に、許可取得後に必要な会計監査を説明します。
不特法では、許可取得後の投資家保護の観点から、投資家及び行政機関に対して継続的に情報を開示することを求めています。
具体的には、財産管理報告書と事業報告書という書類を作成することを求めています。
事業報告書とは
不特事業者は、毎事業年度経過後3か月以内に、「事業報告書」という書類を作成し、許可を受けた行政機関(国土交通省または都道府県)に提出しなければならないとされています。
事業報告書では、不特事業者に関する下記情報を報告することとし、許可取り消し事由等が発生していないか、行政機関がモニタリングできるようにしています。
<事業報告書で報告する事項>
・事業の概要
・不特事業の締結業務の状況
・不特事業の実施の状況
・不特事業契約の締結の代理又は媒介業務の状況
・主要な株主または社員の名簿
・不特事業者の決算情報(貸借対照表、損益計算書、株主資本等変動計算書)
そして、事業報告書のうち、決算情報については、公認会計士または監査法人の監査を受けなければならないとされています。
なお、事業報告書の決算書の様式については、不特法施行規則の末尾に掲載されている様式(様式第十一号)を利用して作成することとなります。
事業報告書の様式は下記よりダウンロード
財産管理報告書とは
不特事業者は、一年を超えない期間ごとに、不特事業契約に係る財産の管理の状況について、「財産管理報告書」という書類を作成して、投資家に交付することが求められております。
財産管理報告書には、投資家に直接交付される書類であるため、投資家が出資した取引に係る経営成績を確認することができます。
<財産管理報告書で報告する事項>
・投資家の出資持分や財産の共有持分
・不動産取引の内容、不動産取引に係る決算情報並びに運用の経過
・不動産特定共同事業に係る委託業務の内容
・利害関係人との間の不動産特定共同事業に係る重要な取引の内容
・対象不動産に係る借入金の内容
なお、財産管理報告書については、公認会計士または監査法人の監査を受けるか否かは任意となっております。
財産管理報告書の監査については、投資家に対する説明責任を拡充するためにオプションで依頼するケースもありますが、その分、監査報酬が増えますので、依頼しないケースの方が多い印象です。
事業報告書と財産管理報告書の違い
事業報告書も財産管理報告書もいずれも不特事業者や不特事業に係る情報を開示する目的で作成する書類ですが、下記の通り相違があります。
事業報告書 | 財産管理報告書 | |
---|---|---|
目的 | 不特事業者全体の情報開示 | 不動産取引の情報開示 |
作成単位 | 不特事業者 | 不特事業別(ファンド別) |
提出先 | 行政機関 | 投資家 |
決算情報 | 不特事業者全社 | 不特事業のみ(ファンド別) |
会計監査 | 必須 | 任意 |
例えば、飲食業と不特事業を行っているX社という会社があったとします。
事業報告書では、X社自体の情報を開示することが目的ですので、事業の状況や決算情報は飲食業と不特事業を合算したものが開示されます。
一方で、財産管理報告書は不特事業の情報を開示することが目的ですので、不特事業に限定した事業の状況や決算情報のみが開示されます。
許可取得後の会計監査まとめ
・事業報告書(必須)
・財産管理報告書(任意)
不特法の会計監査に係る監査報酬の目安
不特事業に参入にあたって、会計監査に係る監査報酬(会計監査を依頼することにより発生する手数料のこと)は必要経費となります。
監査報酬については、会社の個別要因によって大きく変動しますので、予備調査をしないと詳細な金額を出すことはできませんが、当監査法人で面談時にお客様にご案内している監査報酬の目安としてお伝えしている金額を掲載しておきます。
売上規模 | 国内不動産事業のみ | 複数事業あり、海外不動産あり※ | ||
許可申請時 (3期分) | 事業報告書監査 (1期分) | 許可申請時 (3期分) | 事業報告書監査 (1期分) | |
~10億円 | 150~250万円 | 50~150万円 | 左記料金+α | |
10~50億円 | 190~300万円 | 120~200万円 | ||
50億円~ | 要見積もり |
許可取得時については、3年分の決算書の監査をまとめて実施しますので、監査報酬は、事業報告書に比べると高くなります。
当法人では、お客様がランニングコストの計画も立てられるよう、予備調査の時点で、許可取得時3期分の会計監査と許可取得後の事業報告書(1年分)の会計監査に係る見積金額を同時にお出ししております。
予備調査とは
予備調査とは、監査契約前に実施する、会社の事業内容や財務内容の調査のことを指します。
具体的には、会社の事業内容、組織構成、経理体制等をヒアリングしたり、直近事業年度の帳簿や税務申告書の査閲をすることで、どのような会計上の懸念事項があるかを調べます。
この結果をもとに、監査契約を締結しても問題ないかを判断すると同時に、監査に必要な工数の見積もりに基づき監査報酬の見積金額を算出します。
不特法の会計監査スケジュール
不特法の会計監査を受けることとなった場合のスケジュールについて、①許可取得時と②許可取得後に分けて説明します。
許可取得時
許可取得時の会計監査では、直前3年分の決算書の監査を一気に実施しますので、期間は短いですが、会計監査に慣れていない中で、3年分の資料の準備や質問への回答をしていかなければならないので、なかなか大変な作業となります。
許可の本申請までどの程度の期間的な余裕があるかによって、1ヶ月で終わらせなければならないのか、3ヶ月程度のゆとりがあるのか、会社の置かれている状況によってまちまちです。
期間に違いはあれど、スケジュールは下記の通りです。
会計監査では、すべての取引の中から、サンプルを抽出して検討をしますので、サンプル抽出基礎データとして、総勘定元帳や仕訳帳の提出を求められます。
こちらについては、既に存在する資料を提出するだけですので、そこまで時間はかかりません。
①で提出した資料から抽出されたサンプルに係る依頼資料リストが会計士から送られてきます。
②で受領した依頼資料リストに基づき、根拠資料を準備します。
根拠資料については、資料の整理状況によっては、書庫からファイルを引っ張り出してきたりする必要がありますので、大変な作業になることもあります。
昔の担当者から十分に引き継がれていない等、どうしても資料が見つからない場合があると思いますが、その場合には、顧問税理士がコピーを保有していないか、何か他の資料で代替できないか会計士に相談してみてください。
会計士は、準備いただいた資料と帳簿の照合作業や数値の分析を進めます。その過程で生じた不明点が質問リストとして送られてきます。経理担当者は、その内容を調査し、回答をしたり、根拠資料を準備します。
修正事項を会計士から指摘された場合、仕訳の修正をします。この修正の結果、税務申告にも影響を及ぼすこともありますので、その場合には、会社、会計士、税務顧問の三者間で協議をする場合もあります。
許可申請書の添付書類として提出する決算書については、会計システムから直接出力した決算書を添付することもありますし、別途新たなフォーマットで作り直すこともあります。後者の場合には、会計士の指導を仰いで、特定のフォーマットに準拠した決算書を作ります。
帳簿金額の妥当性が確認され、許可申請書に添付する決算書が出来上がったら、監査法人内の諸手続きを経た後に、監査報告書が発行されます。
決算書と監査報告書が袋とじにされたものが納品されますので、それを許可申請書の添付書類として行政機関に提出します。
許可取得後
許可取得後の会計監査では、毎事業年度終了後3か月以内に行政機関に提出する事業報告書が対象となります。
許可取得後においては、担当会計士としては、過去3年分の決算書の監査を経て、会社及び取引への理解がかなり深まっているので、質問量も減少し、監査対応は少し楽になります。
大きく分けると①期中監査と②期末監査に分かれますが、「期末監査」が本番で、「期中監査」は期末監査に向けた準備作業と考えていただければ十分です。
12月決算の会社を例に挙げるとスケジュールは下記の通りです。
12月決算の会社の場合
- ・期中監査(4~12月頃にかけて)
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会社の規模に応じて、会社の経営状況のヒアリングや月次決算に係る帳簿類の査閲をするために、期中において数回、会計監査が行われます。
この時点では、会社情報のアップデート、重要取引のチェック、非経常取引に関する会計処理の指導、期末決算に向けたスケジュール調整などが行われます。 - ・期末監査(2~3月頃にかけて)
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期末監査は、税務計算が完了し、決算が締まった後に、実施されます。
期末監査においても許可取得時の3年分の決算書の監査と流れはほとんど同じです。①帳簿の提出
②検討サンプルに係る依頼資料リストの受領
③依頼資料の準備
④質問対応
⑤修正対応
⑥事業報告書の決算書のチェック
⑦監査報告書の受領
これらの作業を事業報告書の提出期限の期末日の3か月以内に終わらせる必要があります。
監査対象期間が3年分から1年分になるだけで、随分と楽に感じると思います。
税務申告書の提出期限の延長
基本的に、法人税等は決算日の翌日から2カ月以内に申告・納付しなければならないとされておりますが、「申告期限の延長の特例」という制度があり、会計監査を受ける会社では、申告期限を1か月延長することが一般的であります。
「申告期限の延長」は規定の書類を作成し、提出するだけで済みますので、税務顧問へ依頼してやっておきましょう。
(参考)定款の定め等による申告期限の延長の特例の申請(国税庁HP)
https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/hojin/annai/1554_12.htm
不特法の会計監査はどこに頼む?
不特法の会計監査は、監査業界では非常にニッチな分野であり、案件数も相対的に少ないものとなっております。
そのため、大半の会計士は、不特法の会計監査の経験がないだけでなく、不特法の法律の存在さえ知らないのが実情です。
また、監査業界においても他の業界と同様、大中小様々な規模の法人が存在し、それぞれに特徴があります。
そこで、不特法の会計監査を、どこに頼むのが適切なのか、①専門性、②法人規模の観点から説明します。
不特法の会計監査の委託先選定のポイント
- ① 専門性
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まず、専門性についてですが、不特法の会計監査については、許可申請のプロセスを適切に理解していなければ、いつ頃に会計監査を実施すればよいのか、どのようなフォーマットで決算書を提出すればよいのか、適切な提案を受けることができません。
また、不特法の許可取得後においては、組成したファンドに係る決算情報を別管理しなければなりませんので、適切なアドバイスを受けるためにも、不特法監査の経験がある会計士に委託することが重要です。
- ② 法人規模
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次に、監査法人の規模の視点から、適切な委託先選定のポイントをお伝えします。
結論から申し上げると、不特法監査については、下記の理由により「小規模監査法人」または「個人会計事務所」に委託することをお勧めします。
- 理由1 監査報酬が相対的に安価であることが多い。
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規模の小さい監査法人の方が、間接部門が存在しなかったり、間接経費が抑えられており、監査報酬が想定的に安価である傾向にあります。
- 理由2 担当会計士との距離が近く相談しやすい。
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規模が大きくなるほど組織的に監査がされているため、監査チームメンバーが定期的に変動することもありますが、規模が小さいと担当会計士が短期的に変動することは少なく、中長期的に良い信頼関係を築きながら、良い相談相手になってくれます。
- 理由3 監査判断に柔軟性がある。
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会計監査においては、ある一つの事実に対して、白か黒かをはっきりと判別できないことも多く、解釈次第では、白にも黒にもなりうるグレーの範囲が大きいというのが正直なところです。
例えば、ある消耗品2,000円の購入に係る請求書が営業担当者から経理に回付されていないことが、決算確定後に判明したという事実が監査の過程で判明したとします。
この事実に対して、監査上は「消耗品費の計上漏れだから、決算をやり直してください」と判断することもできますし、「決算書全体に対する影響額が軽微だから、決算はやり直さず、次の期に費用処理すればいいですよ」と判断することもできます。
特に、不特法監査を受ける会社は、税務調査に耐えられる範囲で簡便的な会計処理をしていることが多く、会計監査で硬直的な判断をされてしまうと決算書が適正である旨の監査報告書が発行できないケースもあるものと思われます。
この点、小規模監査法人や個人会計事務所の方が、上場企業等の大規模な会社の監査を担っている監査法人と比べて相対的に監査判断に柔軟性があります。
監査契約締結までのスケジュール
ここからは、監査法人へ問い合わせをしてから、監査契約が締結されるまでのスケジュールを説明します。
事業内容、不特事業参入の目的や許可取得までの想定スケジュール等をヒアリングします。
面談の内容を受けて、会計監査を受ける適切な時期等をご提案します。
監査を受けるにあたっての課題の洗い出し及び監査報酬の見積りのために、会社情報や経理体制等のヒアリングや財務内容の調査をします。
予備調査結果を受けて、監査法人として監査を受けても問題ないか、また、受ける場合の監査報酬の見積金額を提示します。
監査契約案に双方が合意の上、監査契約を締結します。
面談開始から見積金額が出るまでは、おおよそ1週間から2週間程度かかることが一般的です。
まとめ
不特法においては、許可取得時に直前3年分の決算書、許可取得後の事業報告書について会計監査を受ける必要があります。(財産管理報告書は任意)
不特法に関する会計監査は、監査業界においても非常にニッチな分野であるため、多くの公認会計士が不特法の存在自体を知らないことが多いのが実情です。
そのため、不特法に精通している会計士に依頼したほうが許可取得のプロセス等を加味した上でスケジュール策定が可能です。
また、監査報酬や判断の柔軟性の意味で、小規模な監査法人または個人会計事務所に依頼することをお勧めします。
当監査法人では、監査契約が締結されるまでは完全無料で相談に応じております。
不特法許可取得要件を財務的に満たしているか、不特法許可取得に向けていつ頃に会計監査を受けたほうが良いか、予備調査による監査報酬の見積もりが欲しい、許可取得に向けてコンサルタントを紹介してほしいなど、お気軽にお問い合わせください。